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 遠藤周作の歴史小説『沈黙』が映画化された。監督は巨匠マーティン・スコセッシ、ハリウッドスターと日本の人気俳優の共演は快挙というべきである。
 この小説はかつて篠田正浩監督によって作られている。1971年のことだ。
 当時は外国映画と日本映画では上映する映画館が区別されていたが、篠田監督の『沈黙』は洋画上映館でかけられ、立派なパンフレットも販売された。日本映画でありながら、洋画扱いだったのだ。
 ただ、あくまでも日本映画であった。篠田版『沈黙』は日本人から見た異邦人の物語であり、外界から来た新宗教を信じる人たちが迫害される物語であったように思う。主演のデヴィッド・ランプソンは無名の新人で影が薄く、キチジロー役のマコ岩松の苦悩がはるかに印象深かった。しかもフェレイラ神父を演じたのが丹波哲郎という異色ぶりである。

 江戸時代初期、鎖国下の日本で布教を続けていたフェレイラ神父が捕らえられ棄教したとの噂がローマ教会に伝わる。
 30年以上も日本で活動していたイエズス会の管区長フェレイラほどの人物が、果たして棄教などするだろうか。
 弟子であるふたりの若い宣教師が真偽を確かめるため、日本への密入国を果たす。
 が、彼らを待ち受けていたのは、拷問、虐殺、水責め、火責め、逆さ吊り、過酷なキリスト教徒への迫害であった。
 ふたりが潜入した時代は天草の乱直後で、幕府は切支丹に対する弾圧を強化し、信者への刑罰は辛酸を極めた。外国人宣教師は国外追放となり、それでも潜伏している者は捕らえられ、拷問の果てに命を落とす。幕府は外国人宣教師を簡単には殺さず、棄教させることで、一般信者の信仰を断ち切ろうと画策する。

 舞台は日本の長崎だが、主人公はヨーロッパ人である。今回のマーティン・スコセッシ版では、アンドリュー・ガーフィールドがロドリゴを、リーアム・ニーソンがフェレイラを演じ、ロドリゴの体験する異郷の物語になっている。
 アメリカ映画だから当然なのだが、私たち観客は日本人であるにもかかわらず、アンドリュー・ガーフィールド扮するロドリゴの目で異国の風景を見、異国の風習を知る。遠藤周作の原作もまた、ロドリゴの視点で描かれているので、この歴史小説は欧米で映画化されることで、よりリアルさを増す。もちろん、日本人キャストは一流であり、風俗も日本の時代劇と変わりなく、きちんと描かれているので、安心して観ていられる。

 マーティン・スコセッシは遠藤周作の原作を28年前に読み、ずっと映画化を温めていたという。巨匠スコセッシに28年間も思われ続けた小説。文学の持つ根強さ、力強さを感じずにはいられない。
 映像の美しさ、演技のすばらしさ、歴史大作としてよみがえった『沈黙』をぜひ堪能していただきたい。

飯島一次

沈黙‐サイレンス‐ 公式サイト

掲載日2017.2.4
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