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「パプーシャの黒い瞳」

 この映画を観て驚いたのは、映像の美しさだ。映像が美しい映画は山ほどあるが、その中でもこれは際立っている。モノクロの画面で写し出される映像は、1ショットずつ取り出せば、そのまま芸術的なフォトとして美術館に飾られてもおかしくない。特にロングショットの見事さは、映画の王道を往く撮り方だと思われる。申し遅れたが、これはヨアンナ・コス=クラウゼとクシュシュトフ・クラウゼ監督によるポーランド映画。名前から察せられるように、夫婦監督だ。クシュシュトフ・クラウゼ監督は惜しくも2014年12月24日にがんのため61歳で死去された。

 パプーシャとは、ポーランドのジプシー(ロマ族)として初めて詩人と認められた、実在した女性ブロニスワヴァ・ヴァイス(1910〜1987)のことだ。ジプシーには、話し言葉はあっても、文字を持たなかった。パプーシャ(人形)はジプシーの言葉をポーランド語の文字に置き換えて詩を書いた。その才能を発掘したのは、ジプシーの研究に来ていたポーランド人の青年イェジ・フィツォフスキ(アントニ・パヴリツキ)だ。彼はパプーシャの詩を新聞に発表すると共に、ポーランドのジプシーという本を出版した。これがジプシー社会の掟に触れ、パプーシャは村八分になった。

 映画はカットバックでパプーシャの少女時代、無理やりに年長の男と結婚させられるいきさつ、ナチスドイツに追われながら赤ん坊を拾った経験、密かに好意を持ったイェジとの精神的な関わりなどを描いている。カットバックを多用すると、煩雑な印象になることがままあるが、この映画の場合はストーリー・ラインがはっきりしているので、迷走するような感じは受けない。むしろドキュメンタリー・タッチの映像で綴られるジプシー社会の特殊性、閉鎖性、貧困などがエキゾチックな民族音楽と共に描かれ、強烈に感性に訴えてくる。ラストシーンで訪ねてきたイェジに窓から寂しそうに手を振るパプーシャのはかない姿が、いつまでも心に残る。

野島孝一


パプーシャの黒い瞳 公式サイト



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