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いのちを楽しむ ―容子とがんの2年間―

 このドキュメンタリー映画は、ひとりの女性ががんによって亡くなるまでの2年間を密着取材したものである。

 人の死をあつかった記録映像というと、どうしても重くて暗いイメージがあって、つい敬遠してしまうことが多い。

 若い頃は死は遠い先のことだったし、中年以降、老齢に向かうと、今度は身につまされて、死を考えるなんてなるべく先送りにしたくなる。

 だが、実のところ、遅かれ早かれ、だれにも確実に死は訪れるのだ。

 特に高齢化社会では、老化にともなうがん患者が急増しているという。

 本作に登場する渡辺容子さんは40歳で乳がんを発症したが、手術も抗がん剤の治療も極力避けて、2012年3月、58歳で亡くなった。

 がんといえば、早期発見による早期治療が一般的だ。しかし、渡辺さんが主治医として選んだ慶応病院の近藤誠医師は、『患者よ、がんと闘うな』の著書もあり、転移しないがんは放っておいてもすぐに命に別状はないし、転移するがんの場合、手術や抗がん剤は患者にダメージを与えるだけという考え。

 制作者の松原明さんにお聞きした。

「日本人は自分で選ぶのが苦手で病院の言うままに治療する人が多いのが現状です。ですから、これまでのがん治療の常識を覆すドキュメンタリーになるのではと期待したんですが、一口にがんといっても千差万別、症状も状況も患者ひとりひとりで違っていて、専門家でない自分たちがうんぬんすることは難しい。それで、この映画は緩和治療を自ら選択した渡辺容子さんの姿を通して、人はどのように最期を迎えるのかという作品になっています」

 画面の中に記録された渡辺さんはとても明るく穏やかだ。「かえって自由なのよ。老後のために貯金しなくてもいいし」などユーモアたっぷりの言葉の数々が印象深い。

 結局のところ、この映画は人の死を描いたものではなく、生きるとは何か、いい人生とは何かを描いたものである。

 市役所に勤め、惰性のように毎日を過ごしていた市民課長が、がんで余命わずかと知ったとき、はじめて輝きを見せる黒澤明監督の『生きる』を、ふと思い出した。

飯島一次


渡辺容子さんの逝き方から教えられたこと

 「いのちを楽しむ ―容子とがんの2年間―」は40歳で乳がんを発症した渡辺容子さんが58歳で亡くなる、最期の2年間に寄りそった映画だ。容子さんは、『患者よ、がんと闘うな』の著者・近藤誠医師や『在宅死のすすめ』の著者・網野皓之医師を主治医に、手術や抗がん剤を極力さけ、自分らしく生き抜き、そして逝った。

 容子さんは、「自分が自分の主治医になれる」と言い、わからなければ医師にきちんと質問し、本もたくさん読んで、自分で決断することを貫いた。3.11でも「できることはしなくては」と考えるような人だった。そんな、がんを抱えながらも、うちひしがれることのない容子さんの周りには、いつもたくさんの友人の姿があった。毎日通院する必要が出てくると、妹さんや友人らが介護チームを作り、最期まで全面的にサポートした。

 容子さんの逝き方は、一つの道筋を与えてくれる。しかし、残念ながら誰もが容子さんと同じようにがんばれるわけでわない。がんばるためには、それを可能にする条件がいる。看取ってくれる家族・友人がいない場合、看取り環境の貧弱な状態は不自由な最期をもたらす。容子さんは逝き方を通して、私たちに問題を提起しているようにも思った。

   上村友子

いのちを楽しむ ―容子とがんの2年間―公式サイト



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