日本映画ペンクラブ

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◆ 「2013年の審査員をつとめて」 まつかわゆま


 今年もPFFぴあフィルムフェスティバルの日本ペンクラブ賞審査員として16本のコンペ作品を見せていただきました。昨年、初めて審査員として参加し、自主映画のおもしろさに「いや、ここまでとは思わなんだ」と開眼させられましたが、今年はさらにその思いを強くした次第です。

 デジタル機材の普及が進み、どの程度の機材を使うかによってしか技術的な差が出なくなっているので、監督はより純粋に「何をしたいのか」「それをどう表現するか」の明確さが問われることになります。その点でも今年、11歳から61歳の作者による511本の中から選ばれた16本はそれぞれにしっかりしたものを持っている作品ばかりでした。

 まず受賞結果をご報告しておきましょう。PFFにはグランプリ・準グランプリ・審査員特別賞が三本の他、パートナー各社が選ぶエンタテインメント賞(ホリプロ)、ジェムストーン賞(日活)、さらにぴあ映画生活の読者審査員による映画ファン賞があります。これに昨年から日本映画ペンクラブ賞が加わったわけです。

 受賞結果は
 グランプリ 「夜とケイゴカー」市川悠輔監督
 準グランプリ「きみの信じる神様なんて本当にいるの?」猪狩裕子監督
 審査員特別賞「女島」泉谷智規監督
       「山守クリップ工場の辺り」池田暁監督
       「夜の法則」山下洋助監督
 エンタテインメント賞 「愛のはずみ」佐藤悠玄監督
 ジェムストーン賞 「女島」
 映画ファン賞 「震動」平野朝美監督
そして、日本映画ペンクラブ賞 「夜の法則」
というもの。

 この逆の順に発表が行われるので、受賞式に出席している監督やスタッフたちは、本当にドキドキしながら発表をきいているわけです。その初々しさ。審査員特別賞が終わった辺りで「受賞はもうない。帰りたい。消えちゃいたい」なんて思っていたチームがグランプリを受賞すると、本気で泣いてますから。いや、初々しい。こういうのを見ると、生半可な気持ちで審査なんかしちゃいかんな、と思います。彼らにとっては将来がかかっているんですから。

 われわれの選出した「夜の法則」は立教大学の卒業制作作品。監督は現在東京芸大の院で映画製作を続けています。と、いうことはこの作品が院の進学の決め手になったということなので、その完成度は推して知るべし。大学で警備員のバイトをしている青年がふと見かけた女子学生に恋をする。彼女を見守り続けるうち、連続女性殺人犯も彼女を狙っていることに気付き…というストーリー。連続女性殺人のサスペンスと、今時のちと覇気のない男青春片思いがうまく出会わされていて、夜の大学構内、夜の町、帰ってくる女子を待つ暗い部屋などぎりぎりの照明で撮影された映像と相まって、切なさすら感じさせるサスペンスにしあがっていました。ラストまで観客を飽きさせずに引っ張っていくストーリーテリングもプロ級、上下左右奥行きを自在に使った構図、そのためのロケ場所探しなど、妥協せずに作っているなという感じも好ましく、我ら二人で一致して日本ペンクラブ賞に推したわけです。アクションシーンのスピード感も含めて、「「チェイサー」など見る度何で日本ではこれができないんだと思っていたけれど、できるじゃん」と私はコメントしました。監督もハリウッド映画はもちろん最近の韓国アクションにも影響を受けていると聞いて納得した次第です。審査員特別賞とのダブル受賞。次回作は芸大の卒業制作でしょうか、今から楽しみな22歳山下洋助君です。

 各賞を受賞した作品についても簡単にふれておきましょう。

 グランプリの「夜とケイゴカー」は正統派自主映画という感じ。突然やってきたイッチーに車を貸すことになったケイゴ。走れば走るほどドツボにはまっていく悪夢のドライブを描く45分。行く先のわからないストーリーと、リアルにキャラクターを練り上げた俳優たちの捨て身の演技が魅力。情熱が突っ走って脱輪していく茨城ロードムービー。
 準グランプリ「きみの信じる神様なんて本当にいるの?」は今年唯一と言っていい社会派ドラマ。高層団地に住むネグレクトされている少女と不法滞在一家の少年が出会う。すぐそこにある社会問題に気付いていこうという志と、映像へのこだわり、柔軟な演出と希望を残す優しさが同居した作品。
 審査員特別賞「女島」は手作り感あふれるクライム・アクション。何となく生きている食肉工場勤めの青年・女島と、貪欲によりよい生活を求め仲間を率いる中国人青年・リー。海賊放送と闇風俗を仲介にして出会った二人の、存在をかけた争いをノワール感たっぷりに描いて見せた。

 審査員特別賞「山守クリップ工場の辺り」プサンとバンクーバーに招待された作品。クリップを手作りする工場に勤め、異様な工場長のいじめに耐える青年の部屋にいついてしまう謎の父娘。つげ義春劇画のような、土くさいIQ84のような、シュールな世界を築きあげた。言葉も食べ物も一から創作したそうな。
 エンタテインメント賞「愛のはずみ」少年院から出た少女が探し出した少年。少年の部屋に転がり込んだ少女の目的とは? 賞を与えたホリプロとしては、「うちのタレントを使った作品をみてみたいから」とのこと。台詞ほぼなし、アップを多用して俳優を際立たせる手腕はホリプロ賞向きかも。

 映画ファン賞「震動」はスキップシティ国際デジタル映画祭でもコンペ入りした作品。若い俳優たちの魅力を生かした青春音楽映画。施設で暮らす少年と耳の聞こえない少女。支え合って生きていこうとしていた二人の間に音楽が入りこむ。このまま公開してもいいくらいの完成された作品。

 このほかに5人の最終審査員たちが共通して挙げたものの賞には届かなかったのが今回唯一のドキュメンタリー「カワツヒロアキ君、はい!」監督はもちろん河津宏亮君。借金を残し家を出た父を探し出す息子。離婚したい母と姉妹に対し、息子だけは父とのつながりを切りたくない。なぜなら、今自分が映画を作っているのは、子どものころに父が映画に連れていってくれたから…。セルフドキュメンタリーだが、次第に父と息子合作の”それでも生きていこうエール交換ドキュメンタリー”になっていく。目頭と心が熱くなるドキュメンタリーだった。

 もう一本だけ、どこかでこの名前が出たら思い出して欲しいのが富樫 渉監督。

 「Living with the Dead」というゾンビ映画で入選。ゾンビ雇用均等法までできた時代に何となく生きているコンビニバイト青年が、拾ったゾンビと暮らし始めるという非アクション・ゾンビ映画。三年前から撮り始め、ほおっておいたのを今年完成させたという。アイデアとセンスがいいので残念。作り始めたら完成させようね、といういい例になってしまった。

 受賞作品でこれだけのバラエティがある、ということは自主映画は身の回りのことを身の回りの人と仲良しで撮っているだけではないとよくわかると思います。映画を「商品」として「売る」ために付け加えられる様々な条件からフリーなのが自主映画。だからこそストレートにやりたいことをやってみたという作品が残るのですね。観る方も胸を開いて、真剣勝負で対峙したい、そんな思いを強くした2013年ぴあフィルムフェスティバルでした。



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