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◆ 「『波伝谷に生きる人びと』受賞のわけ。もしくは今ドキュメンタリーって?!考」 まつかわゆま


 監督の我妻和樹は、大学の民俗学研究室の調査地として宮城県南三陸町波伝谷部落に通う。伝統的な一年の行事とそれを支える地区の人々、村落共同体の仕組み、人々の日々の生活など、民俗学の調査を重ねるうち、そこから見えてくる社会学的な地方農漁村の問題に向き合わざるを得なくなる。そして3年がたち、この波伝谷部落をドキュメンタリー映画にすべく撮影を始めたのが2008年のこと。それからさらに3年間、すっかり部落にとけ込んだ監督に部落の人々はその素顔を見せ始め、外の人にしか語れない本音を語る。監督はそのすべてを受け入れながら、問題の根について考察を重ねていく。そして2011年3月11日、翌日部落の人たちに完成した映画をみてもらうべく波伝谷に滞在した監督は東日本大震災に遭遇する。



 今年のPFFにはドキュメンタリーが2本アニメーションが2本選ばれていた。PFFに応募する自主映画作家は劇映画志向が多いと思うし、逆に言えばもともと現在の状況では自主映画としてでしか成立しないドキュメンタリー「映画」(テレビ・ドキュメンタリーとは別ものとして)はPFFに応募するより自分で上映活動をする方が、監督として認知されるためにも観客に見てもらうためにも手っ取り早いので、ドキュメンタリーを作ってもわざわざPFFに応募しようとは思わないのではないか。ということは入選作に2本も入るというのは結構珍しいことなのではないかと思う。

 だから、あえてPFFに応募した2本のドキュメンタリーに私は注目した。



 ドキュメンタリーはフィクシヨンである。事実を素材として監督の真実を描くものである、と私は考えている。しかし若い作り手の場合、まだ自分自身にとって伝えるべき真実都は何かがつかめていないことが少なくない。映画学校などで学んで卒業制作になって初めてそのことに気づく人も多いのではないか。

 その時どうするか。まずは素材を捕まえて、取材しながら素材の変化とともに監督自身も変化し育っていくのである。それはそれで初々しくて悪くはない。とはいえ、それは素材に作り手が負けてしまうことも多く、「作家の視点を持ち、作家の真実を表現する」「ドキュメンタリー作品」としてはもの足りないのである。

 その点で今年のPFF2本のドキュメンタリーのうち『波伝谷に生きる人びと』には監督の真実が見えていた。「今、ここにはこういう問題がある。自分がどうすればいいかはわからない。けれどこの問題はここだけのものではないし、今に始まったものではないのだ」という真実である。しかしその結論に達するまで重ねた考察、悩んだ軌跡、6年間世話になった人々への仁義と人情、もろもろの「真実につながる道」をまとめあげたと思ったときに波伝谷を東日本大震災が襲う。その日その時にそこに居合わせた監督はもう一度真実を築き直す必要にかられるのである。そして震災後の波伝谷を撮影しながら3年かけて編集を行い完成したのが本作である。

 そこに映し出されたのは震災の被害でも、震災後の部落と人々とその暮らしでもなく、明日も同じ日々が続くと疑いもしない、営々と続いてきた波伝谷のくらし、であった。それはこの3年間、何人もの監督が「被災者によりそう」といいながら作ってきた「震災映画」には欠けていた部分である。しかし、その部分こそが、「何が失われたのか」をくっきりと描き出すものであり、「何を取り戻したいのか」「何が取り戻せないのか」そして「これからどうすればいいのか」という人々、それはこの地区の人々だけでなく被災した地域の人々や、震災後の日本全体を考える人々の思いに近づく鍵なのだ。たまたまとはいえ、監督はその鍵を手にしてしまった。震災後も撮りためた映像もあるという。しかし、それは次回、もしくは次の次の作品になるだろうと監督は言う。真実を構築するには時間もかかるのだ。

 映画を学んだわけではなく、ましてやドキュメンタリーを撮るつもりだったわけではない監督は、撮影しながらその手法や考え方を学び、先行する監督たちの作品を見て学び、オン・ザ・ジョブ・トレーニングの方法で作っていった。編集という重要なパートに三年かかったのも当然といえよう。これからも悩みながら次の作品を、そして『波伝谷に生きる人びと 第二部』をいつか完成させてもらいたいと思う。

 ドキュメンタリーは映画のもう一つの翼である。「映画に新たな未来を拓く」日本映画ペンクラブ賞として、骨のある新たなドキュメンタリー映画作家が生まれてドキュメンタリー映画にも新たな未来を拓くことを希求して『波伝谷に生きる人々』を選んだ、これがその理由である。



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