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 「さしずめ、日本のアイヌ問題。学校ではスウェーデン語を強制され、外に出れば、馬鹿にされてさげすまれる。サーミ族の差別問題が赤裸々に描かれる。身体検査では頭蓋骨のサイズが計測され、しまいには全裸の写真を撮られたり。何という屈辱!妹に向かって「汚いラップ人!」と言い放つ姉の心情は。そういわれた妹の心のうちは。それでも姉を慕う妹に胸が詰まる。秀作だ!」

 これは、去年の東京国際映画祭で見たときのメモだ。

 サーミ人というのは、北ヨーロッパ、ラップランド地方で、トナカイを飼って暮す先住民族。昔から、臭い、不潔、泥棒と、白人からさんざん差別されていたという。

 この映画は、現代のスウェーデンからはじまり、1930年代にさかのぼって物語が進行する。サーミ人の伝統的な生活に嫌気がさし、寄宿舎へ入るのを機会に、家を出る決心をした14歳の少女が主人公。彼女は成績優秀で、先生のお気に入りだが、進学したいと相談すると、かえってきたのは「それは無理。あなたたちの脳は文明に適応できないから。」現実の壁に直面する。

 淡い初恋の青春物語という一面があるため、体験する差別の厳しさがよけいに際立ってくる。スウェーデン人の男の子にナンパされ(そう、彼女は民族衣装を着ていなければ、サーミ人には見えない)、ダンスに行こうとしたものの、おしゃれな服がなく、結局は外に干してある洗濯物を盗んでしまう。また、体臭を気にして、湖で身体を洗うシーンや、名前を聞かれスエーデン人の名前を口にしてしまう場面も。民族衣装を燃やすときはどんな思いだったのだろう。

ダンス・パーティで一目惚れしたボーイ・フレンドを頼ってスウェーデンの都市、ウプサラへ出てきたのはいいが、ここでも厳しい現実を目の当たりにする。それでもめげない彼女の芯の強さには敬服せざるをえない。しかし、ひとり教会を訪れるラスト・シーンを見ると、自らの出自を捨てて望み通りの生き方を選択した彼女は、果たして幸せだったのだろうかという疑問がわいてくる。

 ♪ナヨナナヨナナヨナナヨナ、ナヨナナヨナ‥‥♪。ヨイクと呼ばれる、哀愁を帯びた彼ら独特の歌声がいつまでも耳から離れない。映画祭では審査委員特別賞と最優秀女優賞を受賞したが、個人的にはグランプリだ。

宮内鎮雄

サーミの血 公式サイト

掲載日2017.8.22
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