日本映画ペンクラブメンバーズチョイス



 陽光の中のキノコ岩に始まり、ラストは雪に埋もれた洞窟ホテルの全景。これはトルコ、アナトリア高原の中央部に拡がる世界遺産カッパドキアを舞台にしたドラマである。といっても、活劇映画でもなければ、もちろん観光映画でもない。ほとんどが洞窟ホテルの中で繰り広げられる室内劇、むしろ会話劇といったほうがよいかもしれない。

 主人公のアイドゥン(ハルク・ビルギネル)は、親の遺した遺産を受け継ぎ、ホテルのオーナーとして豊かに暮らしてはいるが、美しく年の離れた妻とは溝が深まるばかり。さらに離婚をして一緒に住むようになった妹との関係もぎくしゃくしている。ある日、アイドゥンの車に少年が石を投げつける。少年の家は貧しく、家主のアイドゥンへの家賃が払えず家財を没収されたことに対する反抗であった。この事件をきっかけに、富める者と貧しき者との確執が露わになってくる。

 金持ちとして、どう生きるべきか、その辺りの深層心理の追求が、この映画のテーマともなっている。

 元々は有名な舞台俳優だったアイドゥンは地元の新聞に連載を書き、悠々自適の生活。それを善しとしない妹や、慈善活動を生きがいとしている妻との長時間にわたる口舌の争い。天井の低い狭い空間での会話シーンには、いささか辟易しないでもないが、巧みなカメラワークと、トルコを代表する名優ハルク・ビルギネルの抑えた演技が見せ場をつくってくれる。

 3時間16分のこの作品は、昨年の第67回カンヌ国際映画祭で、ゴダールや若手有望株グザヴィエ・ドランの作品を押さえて見事パルム・ドールに輝いた。

 ちなみにトルコの巨匠のひとりといわれるヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作品は、本邦劇場初登場となる。   

                                                      平山 允

編注)DVDで発売されているヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の2011年のカンヌ映画祭グラン・プリ受賞作「昔々、アナトリアで」が7月11日から新宿のシネマカリテで、一週間限定レイトショウとして500円で公開される。

雪の轍 公式サイト
Copyright (C) 2011 日本映画ペンクラブ All Rights Reserved.