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 岩波ホールで最も公開本数の多い監督は、アンジェイ・ワイダさんである。1980年に初めて公開した「大理石の男」から、この「菖蒲」まで14本上映した。何回も来日され、私たちにとってたいへん縁の深い映画人である。

 ワイダ監督は日本では「灰とダイヤモンド」「カティンの森」など社会派として知られているようだが、「白樺の林」「ヴィルコの娘たち」をはじめ、「菖蒲」も叙情豊かな文芸作品であり、3作とも高名な作家イヴァシュキェヴィチの原作による。

 さて「菖蒲」は生と死をテーマにした作品で、巨匠ならではの奥行きの深い映像で描かれている。大河を望む小さな町に住む、長年連れ添った医師とその妻。妻は自分が病で余命があまり残されていないことを知らずにいる。彼女は美しい青年の若さと純真さにひかれてゆく…。

 かつて「大理石の男」で活動的な若い女性を演じたクリスティナ・ヤンダが、この作品ではしっとりとした中年女性の役に扮している。私生活でヤンダの夫であり、ワイダの盟友である撮影監督のエドヴァルト・クウォシンスキが「菖蒲」撮影中に病死したことで、作品は大幅に改編された。(彼はすでに病のために「菖蒲」の撮影を引き受けることができなかった。)こうして、原作の小説、主演のクリスティナ・ヤンダのモノローグ、ワイダ監督の撮影風景で構成される形となった。

 80代後半になってもワイダ監督の感性は瑞々しい。自身の体験した歴史も織り込まれた、斬新な作風の文芸作品をじっくりと味わっていただきたいと思う。

岩波律子

菖蒲公式サイト
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