日本映画ペンクラブ推薦映画


 新作映画の作りかたも色々あって、難解を恐れぬ屈指の名画、問題作も厳然と控えているが、この暮れのクリスマスの前から岩波ホールで公開が決まった正月映画「風にそよぐ草」が断然! すっきりと面白い。ぜひオススメしたい「待ってました」のかけ声を誘うところ。

 私たち映画ペンの仲間でもある建築家であり、字幕翻訳者の岡田壮平さんの父上、岡田英次が懐かしく半世紀前に主演した「二十四時間の情景」(59)をご記憶でしょう。あれは広島に反戦映画のロケに来たフランス女優と日本人建設技師が知り合い、一夜の情事に身をまかせるM・デュラス原作脚本を映像化したアラン・レネ監督の最高傑作と言われてきたものでしたが「去年マリエンバードで」そのずっと前にはアウシュビッツ強制収容所の大量虐殺を告発したドキュメンタリー「夜と霧」(55)など映画史に数々の名作を残してきたのが、巨匠アラン・レネ。時は流れて今年89歳にして心軽やかに、なお才気あふれる最新作を。いやァ、驚きました面白く。

 最初の1ショットから「プロほど度肝を抜かされる」筈のスピード演出とカッティング。その歯切れ良さ。一筋縄では行かないシネマの遊び心を熟達した腕と気っぷで見せてくれた芳醇なワインの如き大人の恋愛映画に。年老いたとはいえどんな挑戦的な監督も叶わない発想と大胆さだ。原作であるクリチャン・ガイイの小説の原題を直訳するならば「小事件」なのに、たっぷりと精妙な脚色。話は幸せな家庭を持つ初老の紳士が、ある日ひとりの女性の財布を拾ったことから心捉われての展開だが、なかなか噛み合ない。けれど、それで久しぶりフランス・イタリア合作映画じゃなきゃ出ない哀愁がしっとり匂うのだからたまらない。カンヌ映画祭でも挙って新旧、映画人たちの賞賛に包まれたのは当然。当たりなど度外視したレネ老監督の万感、映画人生のゴールの作品とは思いたくない。この若さ、気負いと情熱にエールを。あらゆるレベルで広く映画ファンに強く推したい。


 瓜生孝

風にそよぐ草公式サイト
・12月17日公開


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