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映画を、アジアを、妻を、愛しぬいた
『佐藤忠男、映画の旅』
映画評論家の佐藤忠男、久子夫妻に筆者が初めて会ったのは、1994年。
佐藤がディレクターを務める第4回「アジアフォーカス・福岡映画祭」の会場だった。
2007年には、佐藤が栄誉賞を受賞したインドの映画祭に夫妻に同行。
アジア各国の優れた映画を発掘してきた仕事が、いかに海外で高く評価されているかを実感した。
『佐藤忠男、映画の旅』は、佐藤が学長を務めた日本映画学校(現日本映画大学)で教え子だった寺崎みずほ監督が、2022年、91歳で死去した佐藤の晩年に密着したドキュメンタリー。
佐藤本人はもちろん、国内外のさまざまな人々のインタビューを核に、佐藤にとって「生涯のベストワン」だったインド映画「魔法使いのおじいさん」(1979年)の魅力を現地を訪ねて探ることで、佐藤の映画に対する情熱の源に迫っていく。
日本映画史をはじめ、溝口健二や黒澤明らの監督論など貴重な仕事を残した日本を代表する映画評論家は、どのように映画を愛し、アジアを愛し、妻を愛しぬいたのか。
自分の仕事は妻の支えがあったからできた、といつも通りの真面目さで語るシーンが心に残る。
若い映画人の育成にかけた佐藤の使命感も伝わってくる作品だ。
11月1日(土)新宿K's cinemaで公開
製作・配 給: グループ現代
推薦者・立花珠樹
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94歳監督の人間賛歌。倍賞の歌声が素晴らしい
『TOKYOタクシー』
シネコン普及以前には、行き当たりばったりで映画館に入ることが、しばしばあった。
何の予備知識も持たずに見て、心をつかまれ、宝物になった作品も多い。
山田洋次監督『TOKYOタクシー』を見て、そんな青春時代の記憶がよみがえったのは、この作品に、映画の楽しさがあふれているせいだろう。
フランス映画「パリタクシー」(2023年日本公開)を原作に、東京のタクシー運転手が、高齢者施設に向かう85歳の女性と心を通わせる物語。
山田自身は「軽い作品」と謙遜するが、映画を知り尽くした94歳の監督だからこそ生み出せた、軽妙で、笑いあり、涙ありの人間賛歌となっている。
山田作品のミューズ、倍賞千恵子をはじめ、木村拓哉、蒼井優、笹野高史らいずれも山田組を経験した俳優たちを主要な役に配している、特筆したいのは、倍賞の声の美しさ。
語りの部分もそうだが、劇中で流れる「星屑の町」「とても静かな夜だから」は素晴らしい。
「パリタクシー」と見比べることもお薦め。原作も心温まる作品だが、山田と朝原雄三の脚本が、いかに見事に「日本の今」の映画にしたか、がよく分かる。
11月21日(金)全国公開
配 給: 松竹
推薦者・立花珠樹
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貧乏の底に蠢く幸せな模擬家族
『ナイトフラワー』
ハードボイルドなシスターフッド全開の快作である。
多額の借金をこしらえて夫が逃げたあと、大阪から東京に越してきた母子3人家族が貧乏のどん底にいる。
小学生の賢い娘は給食をせっせとお代わりして飢えをしのぐ。
昼も夜も働きづめの夏希(北川景子)は、夜の街で偶然手にした覚せい剤を売り始めるが、組織に捕まり、制裁を受けると自分から売人となる。
危険な商売だからと、彼女のボディガードに格闘家の多摩恵(森田望智)。
子供たちも多摩恵になついて幸福な疑似家族が出来上がるが・・・。
高貴な美女の北川がやさぐれてなお一層美女なのが素晴らしい。
派手な格闘シーンを演じる森田が7キロ増量しての体づくりもみごとだ。
それにしてもいろんな格闘技があるなかで、あえて総合格闘技を森田に振った内田英治監督の真意は?
防具もないまま殴り殴られ、蹴って蹴られて、押しつぶし押しつぶされる森田の雄姿にほれぼれ。
筋トレと息上げ運動も半端じゃないのである。
11月28日(金)全国公開
配給:松竹
推薦者・田中千世子
*現在の幹事会メンバーは、飯島一次、岩波律子、角谷浩一、齋藤敦子、佐藤結、関口裕子、立花珠樹、田中千世子、まつかわゆま、森田健司、柳澤和三、渡辺祥子の12人。
★ 2024年日本映画ペンクラブ賞
元20世紀フォックス映画宣伝部長、映画宣伝、企画、配給、製作者 古澤利夫氏
「全米映画撮影協会が選ぶ20世紀最高の映画100作品」
「世界の名カメラマン大全」(ビジネス社)
★ 2024年功労賞
映画評論家、ジャーナリスト 大森さわこ氏
「ミニシアター再訪 都市と時間の物語1980-2023」(アルテスパブリッシング)
★ 2024年奨励賞
ドキュメンタリー映画監督 河村光彦氏
ドキュメンタリー映画「Life work of Akira Kurosawa 黒澤明のライフワーク」
★ 2024年奨励賞
株式会社パンドラ社長 中野理恵氏
「フィルムを紡ぐ 映画編集者 南とめ 聞き書き」
★ 日本映画部門 2024年ベスト5
★ 外国映画部門 2024年ベスト5
★ 文化映画部門 2024年ベスト5
- 2024年度、FIPRESCI(国際映画批評家連盟*)グランプリ、『哀れなるものたち』に決定!
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日本映画ペンクラブも参加している国際映画批評家連盟(FIPRESCI)の2024年度のグランプリは、
ヨルゴス・モンティモス監督「哀れなるものたち」に決定しました。
FIPRESCIのグラン・プリは1999年に創設され、毎年サン・セバスチャン映画祭で授賞式が行われています。
過去の受賞作:
1999年度『オール・アバウト・マイ・マザー』(仏・スペイン)ペドロ・アルモドバル監督
2000年度『マグノリア』(米)ポール・トーマス・アンダーソン監督
2001年度『チャドルと生きる』(イラン・伊・スイス)ジャファール・パナヒ監督
2002年度『過去のない男』(フィンランド・独・仏)アキ・カウリスマキ監督
2003年度『冬の街(英語版)』(トルコ)ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督(未公開)
2004年度『アワーミュージック』(仏・スイス)ジャン・リュック・ゴダール監督
2005年度『うつせみ』(韓)キム・ギドク監督
2006年度『ボルベール〈帰郷〉』(スペイン)ペドロ・アルモドバル監督
2007年度『4ヶ月、3週と2日』(ルーマニア)クリスティアン・ムンジウ監督
2008年度『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(米)ポール・トーマス・アンダーソン監督
2009年度『白いリボン』(独・オーストリア・仏・伊)ミヒャエル・ハネケ監督
2010年度『ゴーストライター』(仏・独・英)ロマン・ポランスキー監督
2011年度『ツリー・オブ・ライフ』(米)テレンス・マリック監督
2012年度『愛、アムール』(オーストリア・仏・独)ミヒャエル・ハネケ監督
2013年度『アデル、ブルーは熱い色』(仏・ベルギー・スペイン)アブデラティフ・ケシシュ監督
2014年度『6才のボクが、大人になるまで。』(米)リチャード・リンクレイター監督
2015年度『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(豪・米)ジョージ・ミラー監督
2016年度『ありがとう、トニ・エルドマン』(独・オーストリア)マーレン・アデ監督
2017年度『希望のかなた』(フィンランド・独)アキ・カウリスマキ監督
2018年度『ファントム・スレッド』(米)ポール・トーマス・アンダーソン監督
2019年度『ROMA/ローマ 』(アメリカ、メキシコ) アルフォンソ・キュアロンのマドランド」
2020年度 未定
2021年度『ノマドランド』(アメリカ) クロエ・ジャオ監督
2022年度『ドライブ・マイ・カー』(日本) 濱口竜介監督
2023年度『枯れ葉』(フィンランド、ドイツ) アキ・カウリスマキ監督
*FIPRESCI(国際映画批評家連盟)とは?
世界の映画批評家や映画ジャーナリストの各国組織で構成され、映画文化の推進と発展、職業的利益の保護のために、
1930年に結成された組織。現在は50ヵ国が加盟し、カンヌやヴェネツィアの国際映画祭で、FIPRESCI賞を授与している。
2024.11.17
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