世界三大オーケストラとは、ベルリンフィル、ウィーンフィル、それにオランダのロイヤル・コンセルトヘボウ(RCO)を指す。音楽評論家の宮本英世さんは、RCOはどんな指揮者が振ってもうまく演奏するという。20以上の国から集まった力量たしかな120人の楽員がフランクで、たがいの音をよく聴きあって音楽をつくっているからだろう。
これは創立125周年の2013年に行ったワールドツアーを追ったRCO初の公式ドキュメンタリー。巧妙なPR映画かという邪推など一蹴するほど、発見に満ちているのだ。
カメラは、楽員たちが各国の人々と交わる姿を当然記録するが、そこでの芸術家でなくて市民としての顔がいい。さらに現地の音楽を支えに生きる人々にも迫っていく。
夫婦で公演に来ていたブエノスアイレスのタクシードライバーは、わびしい夜の街を流しながら「音楽(クラシック)なしには私でいられない」と孤独をもらす。南アフリカの少年少女楽団は苦労人の黒人指導者を得て、打楽器・管楽器のみならず弦楽器も入った演奏を披露し、RCOの面々を驚かせる。サンクトペテルブルクのインテリ老人はかつてスターリンとヒトラー双方から迫害され、両親を殺された過去をカメラに向かって語るが、公演でマーラーの「復活」を聴いて涙する。
ライブの記録ではないから演奏場面はさほど多くないが、奏でる者と聴く者の心が国を越えてつながっていくさまは、クラシックに縁がない筆者でもこのオケが好きになってしまったほどだ。傑作とは言わないまでも取材と編集が自然で、音楽に絡めた見せ方が上手い。割愛した膨大な映像にも充実したシーンが多かったのではないかと想った。
2014年 オランダ
配給:SDP
監督:エディ・ホニグマン
出演:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
1月30日(土)渋谷ユーロスペースほかロードショー
ロイヤル・コンセルトヘボウ オーケストラがやって来る 公式サイト