現代人が過去や未来へ、あるいは過去や未来の人物が現代へタイムスリップする時間SFジャンルをウディ・アレンが描くと、なるほどこうなるのか。
かつて、冷凍冬眠された現代の小市民が未来世界で甦る『スリーパー』を自演したウディだが、さすがに今回は若手のオーウェン・ウィルソンに主役を譲っている。
フィアンセと憧れのパリ旅行にやって来たハリウッドのシナリオライター、真夜中の街角でひとり道に迷い、通りかかった古風な自動車に呼び止められて、同乗すると、行く先のサロンではコール・ポーターが懐かしのジャズをピアノで弾き語り。
そこで出会うのはスコット・フィッツジェラルドやアーネスト・ヘミングウェイ、パブロ・ピカソやT・S・エリオット、サルバドール・ダリにルイス・ブニュエル。
真夜中の自動車が誘うのは1920年代のパリだった。
昼間は現代のパリ市内でフィアンセとオランジュリー美術館やヴェルサイユを見物し、夜になるとひとり古きよき時代のサロンを訪れ、文人たちと語り合う主人公。
若き日のルイス・ブニュエルに、パーティの客がだれも外へ出られなくなるという『皆殺しの天使』のアイディアをささやくと、それのどこが面白いんだと首を傾げられたり。
例によって、ウディ・アレン作品の登場人物たちは実にぺらぺらとよくしゃべる。文学や芸術、歴史や文化についての話題をまるで井戸端会議のおばさんたちのように。
現代人が郷愁を掻き立てられる1920年代のパリ。だが、当時のパリの知識人の憧れは19世紀末のベルエポック。
やたら知識をひけらかすマイケル・シーンのスノッブを笑いものにしながらも、ウディ流時間SFコメディは、ちょっと知的な大衆路線として観客を選別するだろう。
飯島一次
ミッドナイト・イン・パリ公式サイト
・5月26(土)新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他全国ロードショー