
最近の韓国社会は、若者が年寄りに席をゆずらないとか。競争社会ゆえのゆがみだろうか。『八月のクリスマス』や『四月の雪』など良質なロマンティシズムが得意のホ・ジノ監督の新作は、人間性の不可思議を見つめた力作だ。
ソル・ギョング演じるリッチな弁護士の兄と、チャン・ドンゴンの誠実な小児科医の弟。2人はそれぞれ家庭を持ち、傍目には満ち足りた家族同士である。しかし、痴呆症状の始まった老母の世話で弟の妻はグチが絶えない。医者の兄は後妻に迎えた若い妻に子供が生まれ、仕事への意欲は増すばかりだ。
決して対立しているわけではないこの兄弟の関係が、それぞれの娘と息子の関わった事件によりドストエフスキーの人物のような役割を与えられていくところが見ものである。
田中千世子
「満ち足りた家族」公式サイト:https://michitaritakazoku.jp/