ジャズ好きの目で見た雑感を記しておきたい。
この映画は、開巻早々と終章のアメリカ部分が優れている。すなわち、批評家の口利きでスウェーデンの有望歌手モニカが本場ニューヨークのクラブに出たはいいがボロボロになるくだりと、数年後に稀代の名ピアニスト、ビル・エヴァンスに呼ばれて自国語でビルの「ワルツ・フォー・デビイ」を歌って夢の共演を果たすハイライトの部分。
NYロケをしたのか、スウェーデン国内で撮ったのかはわからないが、この両シーンに挟まれた物語のメーン部(国内でのモニカの起伏にとんだ人生を描く)とは気合の入り方が違う。60年代のニューヨークのジャズの現場ってこんなだったのかと想わせてくれる臨場感が見事で、スタッフも緊張あるいは上気して撮っていたのではないか。
最初に出るトミー・フラナガン・トリオ、最後のビル・エヴァンス・トリオともなかなかの感じで(本職のジャズ屋かな?)、ちょっと太めのエヴァンスには失笑。フラナガン(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、デンジル・ベスト(ドラムス)というシブイ名手によるトリオには正規のアルバムがないはずで、スタンダード集かブルース&バラッド集が録音されていたらよかったのになぁと惜しんだ。
ついでに。モニカが歌う他のシーンも面白い。試写を一緒に見た元ジャズディレクターM氏は、「スウェーデン語はゴツゴツしてて、英語のようにはスイングしないねぇ」と点が辛かったが、歌われるナンバーの内容とモニカの心情、歌手としても女としても徐々に磨かれていくさまが響きあっていくよう、巧みに構成されているんですね。メーン部の出来がややセオリーどおりという印象なだけに、そのぶん楽しいみものになっている。
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余談ですが、印象的に使われていたモニカのヒット曲「ウォーキング・マイ・ベビー・バックホーム」は、「昔ナット・キング・コールでよく聴いたんだ。ゴキゲンだったよ」とM氏。そういえば「ウィズ・レスペクト・トゥ・ナット」というオスカー・ピーターソンによる追悼盤が拙宅にあったなぁ。久しぶりに針を落とすと、キング・コールくりそつ、ピーターソンのこの歌が出てきてイイ気持ちになりました。さらにこの曲、刑事コロンボ「忘れられたスター」(ゲストはジャネット・リー、ジョン・ペイン)で引用されていて好きになった曲だった、と思い出したのでした。
南條 廣介
ストックホルムでワルツを公式サイト