
1972年1月13、14日の2日間、ロサンゼルスのバプティスト教会で、当時29歳だった“ソウルの女王”アレサ・フランクリンが行ったゴスペルのライヴは、その年アルバム<AMAZING
GRACE>(日本語タイトル<至上の愛~チャーチ・コンサート~>としてリリースされ、300万枚以上のセールスを記録、今にいたるまで史上最高のゴスペル・アルバムと謳われている。
実は、このライヴは映像に記録されていた。監督は『大いなる勇者』を撮了したばかりのシドニー・ポラックで当時38歳。しかし、このドキュメンタリー映画は完成しなかった。というのは、ショットの始め(または終わり)にすべきカチンコをし忘れたため、16ミリカメラ5台で撮影された約20時間のフッテージの映像と音をシンクロさせることが出来なかったからだ。そんなバカな。と思うようなことが映画の現場ではよく起こる。俳優出身のポラックはドキュメンタリー撮影に慣れていなかったのだ。
ポラックの名誉のために付け加えると、彼はこのドキュメンタリーを自分の手で完成することを最後まで諦めなかった。が、自身が癌に罹患した2007年、プロデューサーのアラン・エリオットに後事を託し、翌年癌で世を去った。
エリオットはスパイク・リーなどから資金援助を受け、最新技術の助けでようやく完成、2018年12月にアメリカ公開するのだが、残念ながらアレサ・フランクリンは同年8月に世を去っている。
私は2019年2月のベルリンでのお披露目上映を見て感激し、帰国後、DVDを購入しようとネットであちこち検索してみたのだが、まだ発売されていないようで、仕方なく、アメリカ版のCDを購入して聴いてみたが、映像にみなぎっていた迫力がそこにはなかった。なので、今回の日本公開は本当に待ち遠しかったし、もちろん日本映画ペンクラブの4月の例会での上映にも駆け付け、素晴らしさを再確認した。
ライヴ会場はロスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で、元は映画館だったらしく、正面の壁には映写用の窓が開いており、洗礼中のイエスの絵が描かれている。MCはジェームズ・クリーヴランド牧師、司会進行だけでなく、自らピアノを弾き、歌う。クリーヴランド牧師が監督を務めるサザン・カリフォルニア・コミュニティ聖歌隊の見事なバックアップ。教会を埋めた人々は、観客というよりは、教会にお祈りに来た信者で、アレサの歌うゴスペルに合わせて、歌い、踊り、涙を流す。ゴスペルは教会で生まれた、という言葉を実感する。
見どころ(聴きどころ)は、アレサの歌だけでない。若きシドニー・ポラック、ミック・ジャガー、トム・ワッツら有名人の顔、あるいは“いてもたってもいられなくて駆け付けた”アレサの父フランクリン牧師、聴衆の歓声、したたり落ちる汗。半世紀の時を経て、この映像が今、私たちの目の前に現れたことが奇跡のように思える。
斎藤敦子
「アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン」公式サイト:https://gaga.ne.jp/amazing-grace
5月28日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国ロードショー