【母の道、娘の選択】



アメリカ、日本/2009年/カラー/85分/DVカム/ドキュメンタリー
監督・撮影  :我謝京子
撮影     :海老根務、中戸川育生ほか
音楽     :寺尾のぞみ、イエイツ容子ほか
製作 :渡辺麻子
編集 :櫛田尚代



  監督の我謝京子さんは、子どもの頃からよく家出をした。どうもここは居心地が悪い。長じてアメリカへ留学したり、テレビ東京で報道ディレクターを務めたりしていた我謝さんは、2001年、幼い娘を伴ってニューヨークに渡り、ロイターの経済記者になって働きはじめた。その矢先に9.11事件に遭遇。娘を抱えて7回の引越しを余儀なくされたという。

 我謝さんが映画制作を思い立ったのは、ニューヨークに暮らす日本人女性たちに対する周囲の偏見からだった。いわく日本の女性はおとなしくて、自己主張をしない。そう断裁されて我謝さんは決心した。こんなことを言われて黙っていては女が廃る。ニューヨークで仕事をする日本人女性の実態を、世界に向けて発信しよう。「日本を出た理由」「罪悪感」「日米の働き方の違い」「子どもと仕事の両立」…。こうして我謝さんの初の長編ドキュメンタリーが生まれた。

 我謝さんの取材を受ける日本女性は、彼女のニューヨーク仲間かと思ったが、そうではなくオーディションで選んだとのことである。彼女たちは一様に、日本は生きにくく、戻るつもりはないと語る。各人が仕事の上で成功していて、社会の役に立つ人生を送りたいと考えている点も共通している。

 日本の伝統文化は、茶道とか華道とか、それぞれに“道”がついている。子育てにも子育て道という道があるらしい。女性の道も決められていて、その道が多様でないのが面白くない。決められた通りにやらないとうしろ指をさされる。

 しかし映画を撮ることによって我謝さんは、自分の道をがんばって進むことが「私の道」なのだろうかと、その輪郭がおぼろげながら見えてきた気がするといい、日本人がアメリカで生きることの矛盾を、笑いとばす余裕もできてきた。

 そんな母のがむしゃらな苦闘をまぢかに見ながら、一人娘のアンナちゃんは高校生に成長した。茶道の師範である母上は、子どもの頃から変わっていた娘を呆れたり笑ったりしながらも信頼している。時々ニューヨークにやってきて娘に茶道を教えると、実にさらっと日本に帰ってゆく。この母娘のさっぱりした関係も気持ちがよい。こうして映画は母、娘、孫の三代の女性を浮かび上がらせることに成功した。

 「母の道、娘の選択」は、現在ポレポレ東中野でモーニングショー中だが、このことを知る人は非常に少ないらしい。2009年の第22回東京国際女性映画祭で取り上げて以来、この作品はほうぼうで自主上映や、招待上映が行われてきた。アメリカでもニューヨークやロサンジェルスで上映され、この4月にはニューヨークインデペンデント映画祭で、最優秀文化ドキュメンタリー賞と観客賞を受賞した。1936年に発足したニューヨーク女性記者クラブが、この映画のためにドキュメンタリー部門を新設して、日本人への初の贈賞になったそうである。今月27日には上映が終わってしまうので、わずかな日数を残すのみだが、ぜひ見にいってください。

 こんなに元気な日本女性が、映画を作る側に立ってくれたことを、私は大いに喜ぶものです。

 大竹洋子(東京国際女性映画祭ディレクター 日本映画ペンクラブ会員)

母の道、娘の選択公式サイト

 

2011年05月26日