【パリ猫ディノの夜】



 2012年、アカデミー賞のアニメ部門でジョニー・デップがモーションキャプチャーによるカメレオンのランゴ役を演じたマカロニ・ウェスタン調の『ランゴ』が受賞したとき、そのライバルだった候補作の1つがフランス製『パリ猫ディノの夜』だった。

 暗黒街の大ボス、ヴィクトル・コスタに刑事の父を殺され、ショックで喋れなくなった少女ゾエは、警察の仕事が忙しい警視正の母ジャンヌに代わって世話をしてくれる家政婦クロディーヌと暮らしている。

 そのゾエの友だちが猫のディノ。夜毎どこかへ出かけ、トカゲをお土産に帰って来るけど、真っ赤な大タコ姿になって現れる悪夢のコスタに苦しむ母のジャンヌはそれが気に入らない。この猫、じつは近頃パリの街を荒らす個性派の怪盗ニコの相棒。屋根から屋根へと飛び回り、宝石や美術品を盗む彼のあとを追ってスリルを味わい自由を満喫する。

 こと自由を描くことになると途端に張り切るのはフランス映画の伝統か? 夜のパリの街を廻る一人と一匹ののびやかな動きが単純な線画のアニメーションに似合ってイイ感じだ。そんなときゾエがコスタ一味に誘拐され、それをニコとディノが救出しようと危険に身を投じれば、かねがねディノの嫌っていた家政婦がコスタの情婦だったことがわかったり、何も知らない警視正ジャンヌがニコを捕まえてしまったり。

 家政婦は悪の一味、コスタと組んでいる、ニコは悪くない、と喋れないゾエのもどかしさ。でも母に真実が伝えたくて、やっと「ママン・・・」と言葉が出ても母にはわからない。ジャンヌの娘を思う気持ちは人並み以上だけれど、警察官としてはカンが鈍い?それでもゾエを守るために悪辣なコスタとアニメならではの目もくらむ高さの場所で闘う勇敢なニコを知り、母としてのジャンヌの目が開かれる。

 こと自由と、もう一つは恋を語る、ということになるとそれこそお家の芸、フランス映画は様々なテクニックを弄して素敵な演出を見せるが、ここでもアラン・ガニョル、ジャン=ルー・フェリシオリの監督たちはちょっとオトボケの結末を用意してゾエとディノを幸せにしてくれる。そんなことアリ?!のユニークな結末に関しては『ランゴ』に勝っていたのかも。 

渡辺祥子

パリ猫ディノの夜公式サイト

 

2013年06月23日