【偶然と想像】

 


 洒落た短編小説を読むような面白さ。三つの短編によるオムニバスである。こんな偶然ありえない、と思うようなことがごく自然に納得できる形で起きてしまうのが映画の魔法なのだ。完成度の高い脚本、俳優の力量、緻密な演出によってそれが可能となる。

第一話『魔法(よりもっと不確か)』
 撮影の仕事が終わったあと、タクシーの中でのモデルとメイク係の対話。モデルは若く、メイク係はちょっと年上だが、親友同士でなんでも打ち明ける関係。メイク係が最近知り合った男性との素敵な恋の予感についてモデルに語る。まるで魔法のようだと。
 その後、モデルはタクシーで引き返し、さるオフィスに入ると、そこにイケメン男がいて、迷惑そうに彼女を睨みつける。
 恋の魔法はどう展開するのか。

第二話『扉は開けたままで』
 三十過ぎて大学の文学部に学生として通う主婦と就職が内定しながら教授から単位を貰えず留年となった男子学生との対話。ふたりは不倫の関係にある。たまたま教授が芥川賞を受賞したニュースがTVから流れる。
 この女性が男子学生にそそのかされて、教授を色仕掛けで罠にかけようとする。教授は彼女に性的興味をまったく示さず、淡々と文学論を語る。教授の真摯さに彼女は感銘するのだが。

第三話『もう一度』
 二十年ぶりに女子高の同窓会で故郷に戻った女性。が、意中の旧友には会えず、ホテルで一泊して翌日駅に向かうと、エレベーターでばったり出会うのだ。同窓会に来なかった友に。相手も偶然の再会を喜び自宅に招くが、なぜか会話がかみ合わない。
 女子高時代に女同士で愛し合い、卒業とともに別れて疎遠になったことを後悔し、それを告白しようとするのだが。

 各作品のどのシーンも、ほとんどがふたりの人物の対話で成り立っており、心地よいせりふのやりとり、リアリティある俳優の演技に魅せられる。女優陣が全員、絵になる美女というのも見応えあり。いつもは悪役やちんぴら役が多い渋川清彦の大学教授が印象に残る。


  飯島一次  



「偶然と想像」公式サイト:https://guzen-sozo.incline.life/

 

2021年11月16日