●日本映画ペンクラブ賞
・映画監督 大林宣彦
79歳にして新作「花筐/HANAGATAMI」を発表し、精力的な活動にとどまることを知らないが、とくに今年は、上下巻・計684ページに及ぶ大著「いつか見た映画館」(七つ森書館・刊)を出版。
取り上げた作品はサイレントや西部劇など121本。解説を務めていた衛星番組のトークをまとめたものではあるが、いずれも大林監督が歴史や制作背景を微に入り細に入り調査し、そこに独自の考察を加えたもので、名作を再発見する楽しさもある。また、大林監督は講師や審査員を務めることも多いが、その度に黒澤監督から教わった「映画はジャーナリズムである」という言葉を述べ、映画が人生に及ぼす素晴らしさや豊かさを、後進たちに伝えている。その長年の、映画にかける情熱に賞を与えたい。
●奨励賞
・シネマ・チュプキ・タバタ
・視覚障害者の映画鑑賞をサポートしてきたボランティア団体「バリアフリー映画鑑賞推薦団体、City Lights」を母体に、そのメンバーがクラウドファンディングなどを活用して、2016年春に、東京、田端にオープンさせた日本初のユニバーサルシアター。
全席に音声ガイド・イヤホンジャックを設置し、「抱っこスピーカー」で音の振動を体感できるなど、視覚障害者向けの施設はもちろん、場内に親子鑑賞室を設けて子連れ客にも対応と、映画館になかなか足を運べない人たちに門戸を広げている。
また、音声ガイドナレーションや音声ガイド台本制作などのワークショップも行なっており、人材の育成にも尽力している。 客席数20席、かタウ社会福祉にも関わる事業は、手間も経営も苦労がしのばれるだけに、応援の意味でも奨励賞を授けたい。
●功労賞
・映画編集者 岸 富美子(きし ふみこ)
1920年(大正9年)、中国、奉天省生まれ。 15歳で京都、第一映画社に入社、編集助手となる。溝口健二、伊東大輔といった巨匠の作品を手伝ったのち、
日独合作映画「新しき土」に参加。1939年(昭和14年)満州に渡り、満州映画協会(満映)に入社。 敗戦後、内田吐夢監督らと同じく中国共産党と共に行動し、1953年(昭和28年)まで、例えば「白毛女」の編集を手がけるなど、中国映画の創生期を支えることになる。
帰国後はフリーランスとして、独立プロの作品を手掛け、1975年(昭和50年)に一線を退く。 2015年(平成27年)、文芸春秋社から、岸の手記、及び聞き書きをもとに、
ノンフィクション作家、石井妙子がまとめた共著「満映いとわたし」出版された。 歴史の生き証人、日本映画史の生き証人である岸さんを、功労賞に推薦したい。