◆ 2016 サン・セバスチャン国際映画祭リポート 中山治美

「トニ・エルドマン」のプロデューサー、ジャニーン・ナコウスキと主演男優のピーター・シモニスチェク
Photo: San Sebastian Festival - Gorka Estrada

 スペイン・バスク地方で9月16日~24日、第64回サンセバスチャン国際映画祭が開催され、例年通り、本年度の国際映画批評家連盟賞グランプリの授賞式が行われた。受賞作は、カンヌ国際映画祭で高評価を得ながら無冠に終わったマーレン・アデ監督『トニ・エルドマン』(ドイツ・オーストラリア合作。ビターズ・エンドの配給で2017年公開)。1999年より始まった年間グランプリで、女性監督の受賞は初となる。現地入りした主演男優ピーター・シモニスチェクとプロデューサーのジャニーン・ヤコウスキは記念のトロフィーを受け取ると、「選んでくださった皆様に感謝を申し上げるのと同時に、初の女性監督の受賞を聞き、大変光栄に思います」と、アデ監督コメントを伝えた。

 秋から始まる映画祭シーズンで、歴史はありながら権威もラインナップもベネチアやトロントの後塵を拝してきたサンセバスチャン。しかし”美食の街”と治安の良さで映画関係者の中で評判が高まっており、日本作品の参加が年々増加。今年はコンペティション部門に李相日監督『怒り』と新海誠監督『君の名は。』、キュリナリー・シネマ(料理映画)部門に遠藤尚太郎監督『TSUKIJI WONDERLAND (築地ワンダーランド)』と白羽弥仁監督『ママ、ごはんまだ?』(2017年公開)、サベージ・シネマ(アドベンチャー映画)部門にプロサーファー枡田琢治が初監督した『BUNKER77』(伝説のサーファーであり、クラーク・ゲーブルの義理の息子バンカー・スプレックルスの生涯を追ったドキュメンタリー)など。闇雲に三大映画祭を狙うのではなく、作品のテーマがより際立つ映画祭の部門を鑑みて、サンセバスチャンをチョイスしているのが興味深い。

 尚、コンペ部門のゴールデン・シェル賞(最優秀作品賞)は中国のフォン・シャオガン監督『『アイ・アム・ノット・マダム・ボヴァリー(英題)/ I am not Madame Bovary』が受賞し、主演女優のファン・ビンビンもシルバー・シェル賞(最優秀女優賞)獲得と2冠を制した。ほか、他部門でも新たに賞を新設するなど、映画祭側の、あの手この手で参加者を引き寄せようとする努力の跡が見られた。

2016年10月08日