
授賞式にて。左からAHN Soongbeum氏、Tashi GYELTSHEN監督、Lukasz MACIEJEWSK氏、筆者
2018年10月4日から13日まで開催されました第23回釜山国際映画祭にFIPRESCI賞の審査員として参加してまいりましたので、以下にご報告いたします。
14年にセウォル号事件に関連するドキュメンタリー「ダイビング・ベル セウォル号の真実」を上映したことをきっかけに釜山市(および、その背後から指示を出していた国)との関係が悪化し、16年には、10年より執行委員長を務めていたイ・ヨングァン氏が辞任する事態となっていた同映画祭。
今年7月に新市長が就任し、映画関係諸団体によるボイコットなどの混乱がようやく収拾され、イ・ヨングァン氏も理事長として映画祭に復帰。
発足当時から映画祭にかかわってきたチョン・ヤンジュン執行委員長と共に、新たな体制がスタートしました。
79カ国から出品された324本の作品の中で、FIPRESCI賞の対象となるのは、メインのコンペティションと同じニューカレンツ部門で上映された10本。
長編第1作、または第2作目となる監督の作品とあって、それぞれに強い思いが込められ、個性の光る映画が並びました。
ポーランドのジャーナリストであるLukasz MACIEJEWSK氏、韓国の映画研究者AHN Soongbeum氏とともに審査にあたりました。
10月8日から10日にかけて10本の作品を見て感じたのは、スタイル、予算、撮影環境といった様々な面でのバラエティの豊富さ。
日本で言えば、“自主制作”とくくられる程の予算規模で、内戦の記憶を神話と絡めて表現しようとする作品があるかと思えば、トップスターを主演に迎え、雪山で長期ロケーションを行った作品があったりと実に様々だったため、「どんな面を重視して賞を決めるか」という点において、議論となりました。
最終的にFIPRESCI賞に選んだのはブータン、ドイツ、ネパール合作で、ブータンのTashi GYELTSHEN監督が手がけた「The Red
Phallus(赤い男根)」。
息をのむように美しいブータンの谷間の村に生きる少女が主人公のこの映画では、閉鎖的な社会の中で、土俗信仰の対象となる木製の“男根”職人である父と、妻子ある恋人という、ふたりの男性との関係に追い詰められ、徐々に高まっていく彼女のフラストレーションの高まりが静かに力強く描かれていました。
自然や伝統が、個人に対していかに残酷たりうるかという視点のユニークさ、主人公のパワー、広大な風景をとらえた見事な撮影を評価するという点で、審査員3名の意見が一致しました。
授賞は10月12日夜の「ビジョンの夜」の中で行われ、賞状が授与されました。