◆ 第66回サン・セバスチャン国際映画祭リポート   中山治美

奥山大史監督(右)と『僕はイエス様が嫌い』で主人公ユラの友人を演じている大熊理樹

 スペイン最大級の映画祭・第66回サンセバスチャン国際映画祭が9月21日~29日に開催された。
 今年は本映画祭常連でもある是枝裕和監督に生涯功労賞にあたるドノスティア賞が贈られただけでなく、ニュー・ディレクターズ賞に『僕はイエス様が嫌い』の奥山大史監督が受賞するという朗報があった。
 同賞の日本人監督の受賞は、第46回の高橋陽一郎監督『水の中の八月 Fishes in August』(1998)以来20年ぶり、2人目の快挙となる。

 同映画祭の申請は、英語字幕に加えてスペイン語字幕も必須となる。
 ゆえに製作費が限られている新人監督にとって、本映画祭のニュー・ディレクターズ部門をワールドプレミアに選ぶのはハードルが高い。
 第33回に設立された同部門にこれまで選出された日本人監督は、先の高橋監督のほか、『PASSION』(2008)の濱口竜介監督、『エンディングノート』(2011)の砂田麻美監督のわずか3人だ。

 奥山監督は、敬愛する是枝監督がコラムなどで常々、本映画祭の魅力を綴っていたことからいつか参加したいと興味を抱いていたという。
 また作品の内容が、自信の体験をもとに、ミッション系の学校に転校した少年が、ある出来事をきっかけに神の存在を考えるようになる内容であることから、カトリックの本場で勝負したかったことも理由にあるようだ。
 それだけに今回の受賞は、奥山監督にとっても大きな自信となったはず。
 すでに第19回東京フィルメックスでのジャパンプレミア上映をはじめ、ストックホルム映画祭(11月7日~18日)など海外の映画祭を回りはじめている。

 ほかに上映された日本作品は、コンペティション部門の河瀬監督『Vison』、海外映画祭の話題作を集めたパール部門に細田守監督『未来のミライ』と濱口竜介監督『寝ても覚めても』、キュリナリー部門に日本・シンガポール・フランス合作『家族のレシピ』、ドノスティア賞受賞記念上映として是枝監督『万引き家族』と、いずれもフランスやスペイン配給の決まった、今年の国際映画祭お馴染みのラインナップ。
 それだけに奥山監督の台頭は日本にはまだ未知なる才能が眠っていると、プログラマーを目覚めさせたのではないだろうか。

 また毎年恒例のFIPRESCIの年間グランプリの授賞式がオープニングセレモニーで行われた。
 今年の受賞はポール・トーマス・アンダーソン監督『ファントム・スレッド』だったが、アンダーソン監督は欠席した。
 一方、本大会のFIPRESCI賞はクレール・ドニ監督『ハイ・ライフ(原題) / High Life』(フランス・ドイツ・イギリス・ポーランド・アメリカ)に贈られた。

2018年10月29日