◆ 第69回(2016年)カンヌ国際映画祭 FIPRESCI賞リポート  齋藤敦子

写真左は、 「FIPRESCI授賞式の模様。今年の審査員を前に挨拶するタシアン会長。」
右は 「『ファルビーク』の記念上映でのアリン・タシアン会長とジョルジュ・ルーキエさん」

FIPRESCI、カンヌで70年。

 FIPRESCI(国際映画批評家連盟)は1946年の第1回からカンヌ国際映画祭に審査員を送り、優秀な作品を表彰してきました。第1回の映画祭の審査員は英国の批評家ディリス・パウウェル氏で、栄誉ある最初の国際映画批評家連盟賞は、オフィシャル部門のデヴィッド・リーン監督の『逢びき』、そして、もう1本が、映画祭から断られたものの、批評家の運動によって上映が可能になったジョルジュ・ルーキエ監督の『ファルビーク』でした。この運動が非オフィシャル部門を生むきっかけとなりましたし、『ファルビーク』は現在では映画史に残るドキュメンタリー映画の古典として知られています。
 70年後の今年、FIPRESCIは5月13日にカンヌ・クラシック部門でデジタル修復された『ファルビーク』の記念上映を行い、カンヌでの70年を祝いました。写真はそのときの模様で、上映前に挨拶する、『ファルビーク』撮影中に生まれ、映画の中では赤ちゃんとして登場しているモーリス・ルーキエさんとアリン・タシアン会長です。

カンヌ国際映画祭、今年のFIPRESCI賞

今年もクロージングの前日の午後、主会場のアンバサダー・ホールでFIPRESCI賞の授賞式が行われました。審査員長はアリン・タシアン会長など全9名で、残念ながらトルコを除き、アジア人審査員はいませんでした。
 『トニ・エルドマン』は、コンペティションのオフィシャルな受賞作には入りませんでしたが、批評家の評価が最も高かった作品です。優秀なキャリア・ウーマンながら人生を楽しむ余裕のない娘を心配した父親が、娘の住むブカレストに現れて、娘の生活を引っかきまわすというユーモアたっぷりの作品で、日本ではビターズ・エンドの配給が決まっています。『犬たち』は、広大な土地を相続した孫が、土地を処分するために都会から田舎にやってくると、祖父が地元の大ボスだったことが分かる、というルーマニアを舞台にした西部劇風の作品で、ミリカの長編デビュー作です。批評家週間の『ロウ』は見られませんでした。
 今年はコンペティションのオフィシャルな審査員と批評家の評価が真っ二つに分かれた年でした。審査員長はジョージ・ミラーでしたが、監督賞を2監督に与えたり、イラン映画に2賞を与えたり、賞の分配に偏りがあり、審査員の身びいきが強い審査結果だったように思います。FIPRESCIの審査員が選んだ受賞作と少しも重なっていなかったことは、批評家の視点を示す意味で、非常に意義のあることだったと思います。

受賞結果
オフィシャル部門
コンペティション:『トニ・エルドマン』監督マーレン・アデ(ドイツ)
ある視点:『犬たち』監督ボグダン・ミリカ(ルーマニア)
非オフィシャル部門
批評家週間:『ロウ』ジュリア・ドゥクルノー(フランス)

訃報
フランスの映画評論家マルセル・マルタンさんが6月4日にパリで亡くなりました。89歳でした。
 マルタンさんは1926年フランスのナンシー生まれ。<シネマ>。<エクラン>、<レヴュ・ド・シネマ>などに映画評を執筆。カンヌ映画祭の非オフィシャル部門として創設された批評家週間の初期のセレクション委員を務められました。1972年から87年までFIPRESCI事務局長、87年から91年まで会長、2013年に新設された名誉会長の一人に選ばれました。世界各国での講演活動もあり、日本との関連も深い方でした。ご冥福をお祈りいたします。

2016年06月24日