◆ 2018年ベルリン国際映画祭、FIPRESCI賞リポート  斎藤敦子

コンペ部門の受賞作『バーニング』、左からスティーヴン・ユァン(一人おいて)チョン・ジョンソ、イ・チャンドン監督、ユ・アインの各氏。
 今年68回目のベルリン国際映画祭が2月15日から25日まで開催され、24日の授賞式の前日、23日夕、キネマテーク映画テレビ博物館のあるフィルムハウス4階ホールでFIPRESCI賞の授賞式が行われました。審査は審査員9名が3名ずつに分かれて行い、コンペティション部門、パノラマ部門、フォーラム部門から各1作品を選びました。

 コンペ部門は、パラグアイのマルセロ・マルティネッシ監督の『女相続人』。相続した古い家に閉じこもり、絵ばかり描いて暮らしてきた老婦人が、隣人から送迎を頼まれ、無免許ながら白タクを始めたことで外の世界を知るという、女性の自立を描いたユーモアたっぷりな作品でした。

「女相続人」のマルセロ・マルティネッシ監督と出演者たち。


 パノラマ部門は、オープニング作品にも選ばれた行定勲監督の『リバーズ・エッジ』。行定監督と主演の二階堂ふみさん、吉沢亮さんは、初日1日で3回のオープニング上映での舞台挨拶とQ&Aを行うという強行軍をこなし、翌日帰国されたため、東京国際映画祭の矢田部吉彦プログラミング・ディレクターが代わって賞状を受けました。


行定勲監督に代わって挨拶する東京国際映画祭の矢田部吉彦プログラミング・ディレクター。

 フォーラム部門の胡波監督の『じっと座っている象』は、おそらく今年のベルリンで最も重要な作品の1本でしょう。中国の地方都市を舞台に、娘夫婦から老人ホームへ入ることを迫られている老人、親友の妻との浮気がばれ、親友に目の前で投身自殺されたやくざ、いじめにあっている友達を助けるために、いじめっ子を事故死させてしまう少年、学校の教師と援助交際をしている少女など、急速な経済発展の陰で、行き場を失ってさまよう登場人物たちの1日を描いた3時間50分の大作でした。
 胡波監督は1988年生まれ。北京電影学院で学び、発表した小説がセンセーションを巻き起こし、将来を嘱望された方でしたが、昨年10月に29歳の若さで自殺。この作品が長編デビュー作にして遺作になってしまいました。


ご子息に代わって賞状を受けた胡波監督のお母様。


●FIPRESCI(国際批評家連盟)賞
コンペティション部門:『女相続人』マルセロ・マルティネッシ監督(パラグアイ)
パノラマ部門:『リバーズ・エッジ』行定勲監督(日本)
フォーラム部門:『じっと座っている象(大象席地而坐)』胡波監督(中国)

2018年03月02日