
2016年4月3日、4日、イタリアのバーリで国際映画批評家連盟年次総会が開かれました。
10月1日~10日に開催された、第20回釜山国際映画祭に、FIPRESCI(国際映画批評家連盟)の審査員として参加しました。
昨年の第19回、沈没事故を起こしたセウォル号のドキュメンタリー映画の上映を巡り、映画祭側と、上映中止を求める釜山市長が対立。
表現の自由が論議を呼び、最終的に映画祭の予算が削減されるなど波紋が広がったものの、記念すべき第20回は無事に開催されました。
ただ、毎年参加しているジャーナリストに聞くと、イベントの規模などさまざまな点で、「20回だから特別に」という派手さは抑えられていたようです。
今回、FIPRESCI から参加したのは、韓国、香港、エジプト、イギリス(出身はイラン)、日本の5名。
New Currents(ニュー・カレント)という、アジア圏の監督で、長編作品が1~2本目という若い才能の作品を集めた部門を審査しました。
エントリーされていたのは、日本の中村拓朗監督の『西北西』を含む8本。
『鉄西区』などで知られるワン・ビン監督を追った、韓国人監督の4時間におよぶドキュメンタリー作品など、そのどれもがテーマや表現に野心が満ちたものでした。
8作から、われわれがほぼ満場一致で国際批評家連盟賞に選んだのは、イランの『Immortal』。
家族の死に責任を感じる老人が何度も自殺を図るものの、唯一の身内である孫の少年に止められ、なかなか「死ねない」という物語を、イラン農村の美しい風景に、ユーモラスな描写まで含めて描き、そこに国や宗教を超えた生と死の普遍的なテーマが込められていました。
演出なのか、偶然なのかも判別できない衝撃的映像も挿入され、強烈なインパクトを残した『Immortal』は、最高賞にあたるニュー・カレント賞も同時受賞しました。
映画祭の会期中、最も印象に残ったのは、クロージング・セレモニーでした。各賞の表彰などが行われた後、舞台に登場したのは、イラン出身の歌手、ヘリー・ラヴ。
代表曲「Revolution」を歌う彼女のバックに、「Peace」「No War」などの幕を掲げた韓国の若者たちが圧倒的なパフォオーマンスを繰り広げ、明らかな政治的メッセージを発信していたのです。
クロージングにふさわしいかどうかの論議はともかく、表現の自由につながる映画祭の強い意志を伝えたのは確かです。
こうしたパフォーマンスが、はたして東京国際映画祭で可能か…と考えると複雑な心境でした。