◆ 8月の例会報告 ジョン・ラーベ 南京のシンドラー

 南京事件を描いたドイツ・フランス・中国の合作映画であり、2009年の製作であるが、日本では映画会社による劇場公開は行われていない。

 したがって、日本映画ペンクラブの例会でこの作品を鑑賞できたことを、まず私は幸運に思う。

 ジョン・ラーベを演じたウルリッヒ・トゥクルはわが国ではさほど知られていないが、脇役に個性派スティーブ・ブシェミ、若手人気のダニエル・プリュールが顔をそろえ、さらにうれしいのが日本人キャスト。香川照之、柄本明、杉本哲太、ARATA(井浦新)というベテランが日本軍人をリアルに演じている。

 日中戦争下の1937年12月、日本軍は南京を攻略した。戦闘は日本側の圧勝で、多数の中国兵が死亡し、捕虜が処刑される。

 中国の民間人を戦火から守るために南京在住の欧米人によって安全区が作られ、ドイツの大企業シーメンス社の南京支社長であったジョン・ラーベが委員長となる。ラーベはナチス党員の立場を利用し日本側と交渉、20万の中国人を救った。

 この映画はラーベの日記をもとに、当時の史実を組み込んだドラマで、物語の構成、俳優の演技、リアルな映像、どれをとってもよくできている。

 決して日本軍の残虐さを誇張した浅薄な反日プロパガンダではなく、主人公の葛藤、夫婦愛、若者の淡い恋、対立と和解、はらはらどきどきのサスペンスなどが盛り込まれた上質の作品である。

 この映画では日本軍による民間人の大量虐殺は描かれない。たしかに捕虜の処刑、百人斬り競争、町での殺人や強姦なども出てくるが、戦争ともなれば、古今東西、非人道的な行為は当然ありえる。無造作にいともたやすく人の命が奪われる。それが戦争なのだ。

 映画の最後に南京の死者が30万人という字幕が出る。この数字には異論もあろう。戦時中、日本のマスコミは戦意を煽るために敵の被害を大袈裟に書きたて、戦後、中国は犠牲者の数を誇張してきた。ただ、数字の真偽は別として、戦争によって多くの人命が無残に奪われたのは事実であり、ひとりひとりの命の重さを数字で表すことはできない。

 戦後70年、戦争の残酷さ、悲惨さを忘れて、再び戦争を勇ましい英雄的な行為として賛美しようとする風潮さえ現れている。当時を知り、戦争の悲惨さを語りつぐ人々は年々少なくなる。あらゆる戦争は普通の人々から幸福を奪い、地獄に突き落とす。映画はそれを伝える重要な手段である。

 この映画が、日本軍を悪役に描いているという理由で(香川照之の憎々しい名演技もあって)一般劇場公開されないとすれば、実に残念な話ではないか。

 飯島一次



「ジョン・ラーベ」の音声について。

 20世紀フォックスのファンファーレから、おやと思った。音がへんだ。物語が始まってからも、音楽や効果音と台詞のバランスが異常に悪いのだ。工場で、機械の音がする中の台詞など、ほとんど聞き取れない。これが最後まで続いたのには閉口した。イライラしっ放しだったので、自分だけかと思って、上映終了後に聞いたら、やはりおかしいと感じた人が何人かいた。

 機械のせいかと思って、終了後、担当者に聞いたところ、問題はないというし、上映実行委員会の方も、台詞のヴォリュームが小さいとは思ったが、こちらでは手を加えていないとのこと。ちなみに、ホーム・ペイジに出ている予告編の音は問題ない。なぜ本編の音がおかしいのかよく分からないが、不良品が届いた可能性が高いのではないだろか。原因をチェックする必要があると思う。

 宮内鎮雄

2015年08月18日