スペインで最大規模を誇る第65回サンセバスチャン国際映画祭が9月22日から9月30日まで、バスク地方のサンセバスチャンで開催された。メーン会場のクルサールで行われたオープニングセレモニーでは、国際映画批評家連盟賞グランプリの贈呈式がとり行われるのが恒例だ。今年の受賞作品は、フィンランド映画『希望のかなた』(12月2日よりユーロスペースほか全国順次公開)で、アキ・カウリスマキ監督に記念のトロフィーが贈られた。カウリスマキ監督の同賞授賞は、2002年の『過去のない男』に続いて2度目となる。
同作は前作『ル・アーヴルの靴みがき』に続いて難民問題をテーマにしている。ステージに登壇したカウリスマキ監督は受賞の喜びもそっちのけで、「私たちがアフリカや他の地域で起こっていることから背を向けるのであれば、私たちはもはや人間ではありません」と約1800人の観客に向かって訴えた。
1953年に創設された同映画祭も、今年で65回の記念大会を迎えた。オフォシャル・コンペティション部門とニュー・ディレクターズ部門の2つのコンペティション部門が柱となっており、今年はオフィシャル・コンペティション部門に諏訪敦彦監督&ジャン=ピエール・レオー主演の日本・フランス合作映画『ライオンは今夜死ぬ』(2018年1月20日公開)と、アニメ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(武内宣之監督)が特別上映作品として選ばれた。

「ライオンは今夜死ぬ」の公式上映後、観客の花道で会場を後にする(写真左から)ジャン=ピエール・レオー、諏訪敦彦監督、ポーリーヌ・エチエンヌ
受賞には至らなかったが、ホセ・ルイス・レボルディノスが2011年にディレクター・ジェネラルに就任して以降、日本作品が毎年のようにコンペ入りを果たしている。さらにスタイルも上映時間も規定ナシで作家独自の視点を持った作品を対象としたサバルテギ-タバカレラ部門には、五十嵐耕平&ダミアン・マニュヴェル共同監督の日本・フランス合作映画『泳ぎすぎた夜』(来春公開)が選出されている。映画祭側が日本に門戸を開いている今、日本の映画関係者も積極的に同映画祭に挑み、スペインをはじめとするラテン文化圏への進出を目指して欲しいところだ。
また、”美食の街”を象徴すべく2011年に新設されたキュリナリー・シネマ部門がさらに活況を帯びている。映画の上映後、スターシェフが映画にちなんだディナーを提供するもので、今や発売約10分でチケットが完売する人気ぶりだ。今年は日本から、”ラーメン界の絶対王者”と称される「中華蕎麦 とみ田」(千葉県松戸市)の店主・富田治のラーメン道に密着したドキュメンタリー映画『ラーメンヘッズ』(重乃泰紀監督。来年初春公開)と、フカツマサカズ監督『パパのお弁当は世界一』が選出された。
特に前者は富田氏が現地入りし、4年制の料理専門大学「バスク・キュリナリー・センター」の協力のもと、地元食材を使ったスペシャル・ラーメン・ディナーを提供した。西洋式のディナーではまずありえない、参加者80人が麺をすする光景は圧巻であり、かつラーメンが国際的に日本の味として認知された記念すべき日でもあった。

「ラーメンヘッズ」のスペシャル・ラーメン・ディナーの様子
最後に。オフィシャル・セレクション部門で、審査委員長のジョン・マルコヴィッチから最優秀作品賞にあたるゴールデン・シェル賞を贈られたのは、ジェームズ・フランコ主演&監督『ジ・ディザスター・アーティスト(原題)/The
Disaster Artist』。同作は3月に米国で開催された第24回サウス・バイ・サウスウェスト映画祭でワールドプレミア上映されたのに続き、9月のカナダ・トロント国際映画祭でミッドナイト・マッドネス部門で上映されて徐々に評価が高まっている。今後、賞レースを賑わす存在となりそうだ。

最優秀作品賞のゴールデン・シェル賞を受賞したジェームズ・フランコ