
日本映画ペンクラブの例会が10日、TCCで開かれ、11月17日から新宿K‘s Cinema、オーディトリウム渋谷などで公開予定の劇映画「EDEN」を上映した。メガホンをとった武正晴監督が来場されて質問に答え、会員たちから盛大な拍手が送られた。
「EDEN」は船戸与一著の短編小説「夏の渦」「新宿・夏の死」(文春文庫)を映画化した。企画は俳優の故・原田芳雄氏、エグゼクト・プロデューサーは李鳳宇氏。
新宿のショー・パブ「エデン」で店長兼演出家をしているミロ(山本太郎)は、仲間の従業員ダンサーたちとけんかをしながらも和気藹々と過ごしている。ある夏の日、ミロの誕生祝を仲間が計画してくれた朝、酔いつぶれてミロのアパートに転がり込んでいた従業員のノリピーが冷たくなって発見された。散々警察でいやみを言われて帰宅したミロに次の衝撃が走った。「エデン」のオーナー美紗子(高岡早紀)の部屋がストーカーによって荒らされ、愛犬が殺された。ミロは仲間たちと共にストーカー男をとっちめるため立ち上がる。
新宿2丁目のおかま、あるいはゲイと呼ばれる男たちの結束と世間に白い目で見られる苦悩を描いたこの作品は、笑いと涙に彩られた映画だ。特にノリピーの遺体を千葉の実家に運んでからの母親(藤田弓子)との対面シーンはハンカチが手放せない。
武監督は崔洋一、井筒和幸、中島哲也監督らの助監督の後、「ボーイ・ミーツ・プサン」(2007)で監督デビュー。「花婿は18歳」「カフェ・ソウル」(2009)などを撮ってきた。武監督との質疑は次の通り。
――原田芳雄さんとこの映画のかかわりは。
武監督「90年代の終わりに原田芳雄さんが李鳳宇さんを”新宿2丁目に小説のモデルになったおもしろい店がある”と連れて行きました。そのころに店に張り紙がしてあって、店じまいが決まっていたようです。芳雄さんが、これを映画にしたらおもしろいのではと持ちかけ、そのとき李さんはあまり乗り気ではなかった。しかしここ数年、李鳳宇さんがやる気になっていました。映画化が決まって、芳雄さんに自分は歳をとってしまったから年齢相応のやれそうな役があったら出してくれと言われていましたが、撮影に入る前に亡くなってしまったのです」
――新宿2丁目などはロケですか?
武監督「ロケです。セットはあまり好きではない。出来る限り本気で2丁目の映画を作りたいと思っていました。2丁目も大きく変わっていきますから現在を記録しておくのは大切なことです。店内もセットでなく、廃業した店を借りて撮りました。ミロのアパートは根岸で撮影しました」
――ゲイの映画ですが、本物を集める気はなかったのですか。
武監督「俳優にやってもらう気でした。俳優にとってゲイとかレズを演じるのは難しい。俳優が演じる中性的な役は評価されることが多い。世界中の映画を観ましたが、すごく数が多いのに驚きました。テレンス・スタンプの演技なんか勉強になりました。男が女を演じたり、女が男を演じるのは大変だから俳優の意気込みが違うんです。俳優が俳優の仕事をしてくれました」
――男っぽい高橋和也さんがひげをはやしたオカマをやっていましたが、ひげのオカマなんているのですか。
武監督「新宿2丁目に何人か知人がいますが、実際ひげのオカマもいました。スペインのマジョルカ島にいたひげのオカマは有名で、和也さんそっくりです」
――「おくりびと」にもありましたが、肉親が遺体を拒絶するなんてことがあるのですかね。
武監督「いろいろなケースがあるようです。行政が棺おけを用意することもあるそうです」
――映画を作る上で難しかったことは。
武監督「時間と資金が少ないことでした。しかし優れた俳優がそろったので、準備に時間をかければスムーズに撮れました。ラストなどの撮影時に台風が来たのですが、運よく雨がやんでくれて素晴らしい絵が撮れました」
――山本太郎さんがいいですね。原発の騒ぎなんかもありましたけど。
武監督「俳優としてのうまさなどからミロの役は彼しかいないと思っていました。騒ぎがあったから余計にやってくれるのではないかと思いました。予想通り役にぴったりでしたね。台本を読んで、これは母親の映画だと思いました。山本さんが応えてくれた。故郷の母親と電話で話すシーンは、彼が独りで会話したあとで、母親の声を入れたんです。彼は関西の出身ですが、東北出身の俳優にコーチしてもらって方言をモノにしました」
――新宿2丁目の方々はどう見てくれるでしょうか。
武監督「すでに多くの方々に見てもらい好評でした。原作が以前に書かれていたものですから、現在とは少し違った面もあります。"古いオカマねえ”と言われる方もいましたね。これからもどんどん見ていただこうと思います」
文責 幹事 野島孝一