
娘が憧れるコスプレ衣装を購入する為に父親が犯罪に手を染めれば、エンディングには丸山(美輪)明宏主演の映画『黒蜥蜴』(62)の曲が流れる--。
スペイン・バスク地方で開催された第62回サンセバスチャン国際映画祭(9月19日~27日)コンペティション部門で、金の貝殻賞(最優秀作品賞)に選ばれたのは、日本文化の影響が随所に表れていたサスペンス劇『MAGICAL
GIRL』(西・仏)だった。監督は、スペイン出身のCARLOS VERMUT 。元々は漫画家で、本作が長編2作目。母国の巨匠ペドロ・アルモドバル監督の影響を受けているそうで、「センセイ」と呼ぶ。確かにアルモドバル監督の系譜を継ぐシュールな不条理劇はユニークだが、絶賛とまではいかない。しかしフランソワ・オゾンやスザンヌ・ベア、ダニス・タノヴィッチら中堅監督の手堅いが、無難な作品が並んだ中で、『アザーズ』などの製作で知られるフェルナンド・ボヴァイラら審査員は、スペインの新鋭に賭けたのだろう。『MAGICAL
GIRL』は他、銀の貝殻賞(最優秀監督賞)と2冠を獲得した。
オリジナル予告編
http://www.youtube.com/watch?v=r_1wQM6WUXE
サンセバスチャン国際映画祭はスペイン最大級の映画祭を誇りながら、日本での知名度は低い。コンペの傾向は、日本では是枝裕和監督や河瀬直美監督が愛されてきたように、家族をテーマにした作品が多い。それは、スペインの中でも独特の文化を持ち、家族の絆を重んじるバスクの地域性を考慮してのものだろう。次点にあたる特別審査員賞も、自然の中で子供を育てたいとする父親の暴走が一家離散を招いた実話がベースのセドリック・カーン監督『WILD
LIFE』(仏)。ほか、どの部門のセレクションも市民の目を意識したラインナップだ。そこに本映画祭が長続きしてきた所以があるのだろう。
国際批評家連盟にとっても、本映画祭では毎年、その年の国際批評家連盟賞の授賞式を行う場として重要視されている。
本年度の受賞作は、リチャード・リンクレイター監督『6才のボクが、大人になるまで。』(11月14日公開)。監督は現地入りしなかったが、ビデオメッセージを寄せ、「エスケリク・アスコ!」とバスク語で感謝を述べた。

ビデオ・メッセージのリチャード・リンクレイター