木洩れ日の家で


 ポーランドのドロタ・ケンジェジャフスカヤ監督による心を打つ作品だ。

 モノクロで撮られているのが、今時では珍しい。ワルシャワ郊外の森に中に古い家が建っている。窓ガラスが多く、朝日にキラキラ光るさまが美しい。その家には老女が犬と住んでいる。91歳のアニエラ(ダヌタ・シャフラルスカ)だ。

 昔の思い出をいつくしみながら、温かい紅茶をゆっくりとすする。ボーダーコリーのフィラはニンジャのようにひっそりと、ご主人に付き添う。アニエラには息子と太った女の子の孫がいる。息子はこの家を売るように画策している。アニエラには売る気がない。

 隣には子どもが入った施設がある。へたくそなブラスバンドの練習がやかましい。悪ガキが塀を越えて侵入する。まあたいしたことがない日々の繰り返し。しかしアニエラは確実に老いていく。それぞれの人間にとって一番大事な生き方とはなんだろうと考えさせられる。

 名女優シャフラルスカの名演に酔う。白黒模様の犬の探るような、気遣うような目がなんともいえない。これは演技賞ものだぞ、と思えるほどの切ない表情が印象に残る。

 それにしても、このモノクロの映像は見事だ。今やモノクロのフィルムは世界中を探しても数少ないし、現像の機械も減っている。だからモノクロ映画はカラーフィルムを退色させるか、デジタルを使うのが普通だ。それにしてはこのモノクロは昔のモノクロフィルムをそのまま使っているように思える。

 つまりはなつかしのヨーロッパ名画の趣を保っている。

 映画ジャーナリスト 野島孝一

 

2011年02月05日